レーシック(イントラレーシック)は、エキシマレーザーというレーザーを使用して角膜を削り、角膜の屈折率を矯正する手術です。老眼対策として近視を少し残したい。というような特別な事情が無いかぎり、目標とすべき数値は正視(±0.0D)となります。
以前も書きましたが、この屈折度数が±0.0Dに矯正されたからと言って必ず視力1.0以上が得られるわけではありませんが、水晶体(毛様体)の調整能力が十分に働いている35歳ぐらいまでなら、術後度数が±0.75D以内に収まれば視力1.0以上は見える場合が多いです。
最近の高性能レーザーは誤差が非常に少ないとはいえ、角膜の状態は各個人で異なります。また、患者の手術当日の体調、角膜水分量、レーザーを照射する手術室の気温や湿度の変化など、様々な要素が影響するため、意図した通りの結果が得られないことは仕方が無い事です。さらに、レーシックのフラップ(角膜)が治癒する過程において、多少の度数変動が起こります。ですので、術後1年経って±0.50D以内に収まっているのであれば大成功と言えます。
では、±0.50D以内に収まらなかったら失敗なのか?
それは失敗とは言えません。上記の理由を考えれば、±1.00D以内の誤差は許容されるべきだと思います。つまり、この±1.00D以内で安定したあとに再手術出来るだけの角膜厚が無い場合は、レーシックを受けるべきでは無いと私は思います。また、残念ながら角膜が薄く、1回の手術しか受けられない場合は、多少の近視や遠視が残ってもメガネやコンタクトレンズを使い続ける覚悟が必要です。
では、どれくらいの角膜厚があれば良いのか?
臨床データを見る限り330μm以上(注1)の角膜ベッド(フラップ厚をのぞく、レーザー照射後の残存角膜厚)が残せればベストでしょう。国際的な最低基準が250μm以上ですので、かなりのマージンがあります。この数値が残せない場合、280μm以上(注2)が次の目安となります。この数値さえ割り込むような手術であれば、あきらめる事をおすすめします。なお、これに再手術分の角膜厚、約20μm(-1.0D矯正分)を足した350μm/300μmという数値が、より安全な判断の目安となります。
注1)330μm以上の角膜ベッドが残っていれば近視戻りが起こりにくいというデータがあります。
注2)280μm以上残っていればコントラスト感度の低下が起こりにくいというデータがあります。
例えば、-6.0Dの近視に-1.0Dの乱視がある患者の場合、標準的なOZ:6.5mmだと、約(6+1)x14μm=98μmの切除が想定されます。
■通常のレーシックの場合
フラップ厚が約160μm〜120μmですので、安全値を取って160μm+98μm=258μm、これに350μm/300μmをそれぞれ足すと、ベストケース:608μm/ベターケース:558μmということになります。
■イントラレーシックの場合
フラップ厚が約110μm〜90μmですので、安全値を取って110μm+98μm=208μm、これに350μm/300μmをそれぞれ足すと、ベストケース:558μm/ベターケース:508μmということになります。
残念ながら、日本人の角膜厚平均が520μmですので、いずれの場合もベストケースで受けられる人は限定されることになります。
さて、前置きが長くなりましたが、本題です(笑)上記をふまえて手術を受けたとしても、残念ながら手術である以上100%成功するとは言えないうえ、度数が安定するまでには時間がかかります。度数の安定に関しては、角膜細胞は生きているので生理学的な条件だと思ってあきらめてください。(笑)
では、度数が安定するとはどういうことか?
レーシックを受ける場合、過矯正/矯正不足という問題があります。±1.00D以内は許容範囲内だ。と言いましたが、それは最終的に安定した時の話です。遠視になれば過矯正、近視が残れば矯正不足ということになりますが、誰しも術後1年ぐらいは度数変化が起こります。そこで、その変化がどれくらいの量、期間に起こるのかを紹介したいと思います。
最近FDAに提出されているエキシマレーザーの認可申請に含まれる、度数変化に関するデータは非常に限定されています。ですので、これから紹介するデータは少し古いものだと言う事をふまえてご覧ください。また、これらの数値は全てのレーザーメーカーが開示している情報では無いので、安易に比較しないで頂きたいと思います。
STAR S4 -6.0Dから-11.0D(強度~最強度近視)の臨床データによると
| 過矯正(遠視になる)率(乱視なしのグループ) | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 術後月数 | 1ヶ月 | 3ヶ月 | 6ヶ月 | 9ヶ月 | 12ヶ月 |
| 母数(単位=眼) | N=83 | N=82 | N=83 | N=73 | N=46 |
| +1.0Dから+2.0D | 3.6% | 1.2% | 1.2% | 1.4% | 0.0% |
| +2.0D以上 | 0.0% | 1.2% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
| 矯正不足(近視が残る)率(乱視なしのグループ) | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 術後月数 | 1ヶ月 | 3ヶ月 | 6ヶ月 | 9ヶ月 | 12ヶ月 |
| 母数(単位=眼) | N=83 | N=82 | N=83 | N=73 | N=46 |
| -1.0Dから-2.0D | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
| -2.0D以上 | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
| 過矯正(遠視になる)率(乱視ありのグループ) | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 術後月数 | 1ヶ月 | 3ヶ月 | 6ヶ月 | 9ヶ月 | 12ヶ月 |
| 母数(単位=眼) | N=101 | N=98 | N=95 | N=97 | N=61 |
| +1.0Dから+2.0D | 4.0% | 5.1% | 3.2% | 3.1% | 1.6% |
| +2.0D以上 | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
| 矯正不足(近視が残る)率(乱視ありのグループ) | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 術後月数 | 1ヶ月 | 3ヶ月 | 6ヶ月 | 9ヶ月 | 12ヶ月 |
| 母数(単位=眼) | N=101 | N=98 | N=95 | N=97 | N=61 |
| -1.0Dから-2.0D | 0.0% | 3.1% | 4.2% | 4.1% | 6.6% |
| -2.0D以上 | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
乱視があると、術後3ヶ月が遠視気味になるピークで、その後9ヶ月、術後1年経つまでは遠視状態が続く可能性があるようです。また、近視の戻り(新たな近視を含むと思われる)は3ヶ月後から現れて、どんどん増えていくようです。言い換えれば、1年経っても近視が出ていなければ、その後に発生した近視は新たな近視と言えるでしょう。そもそも近視の人の多くは、PCを1日8時間以上見続けるとか、近視になるような生活をしていますので、生活をあらためないと、また近視になると思います。
なお、乱視なしのグループで、矯正不足(近視が残る)がゼロになっていますが、これは被験者全員に近視が残らずキレイに修正されたとはいえません。どちらかというと強度近視は過矯正になりやすい。と、より安全にリスクを読み取ったほうがよいでしょう。
もう一つ別のデータです。TECHNOLAS 217Z -7.0D以下の臨床データによると
| 度数変化の発生した割合とその変化量 | ||
|---|---|---|
| 術後月数 | 1ヶ月〜3ヶ月 | 3ヶ月〜6ヶ月 |
| 母数(単位=眼) | N=340 | N=340 |
| ±0.50D以内 | 86.8% | 90.9% |
| ±1.00D以内 | 96.2% | 98.5% |
このデータの見方ですが、術後3ヶ月から6ヶ月の間に±0.50D以内の変化が起こった人が約90%いて、約8%(98.5%-90.9%=7.6%)の人が±0.50Dから±1.00Dの変化が起こった。というふうに見ます。1ヶ月〜3ヶ月より3ヶ月〜6ヶ月の方が多いと言う事は、ほとんどの人が半年経っても多少変動する。という事が言えます。
※±0.50D程度の変化は水晶体の調整力で吸収出来てしまうので、ほとんどの人が変動を自覚していないはず。視力変動の自覚アンケートでは、ほとんど人が変動無しと回答している。
なお、各エキシマレーザーの照射精度に関しては、レーザー毎に見え方の質を比較したこちらの記事をご覧ください。


コメント (3)
とても興味のある内容でした。
正視(±0.00)をターゲットにして近視矯正手術をし、結果的に近視が少し残った場合も、いわゆる「老眼対策」と捉えることができるのでしょうか?
もしくは近視が残った上に、手術をする前に比べると老眼も早く感じるようになる、というどっちつかずの状態ということなのでしょうか?
今後のブログも楽しみにしています。
投稿者: さくら | 2007年05月23日 13:13
日時: 2007年05月23日 13:13
さくらさん、コメント激早ですね(笑)
その後の経過はいかがでしょうか?多少は安定してきたのでしょうか?イントラレーシックの場合、安定するまでの期間が短いようです。私の場合は1ヶ月頃から急激に安定しました。
ご質問の件ですが、失礼ながら、さくらさんは老眼を気にするようなお年なんですか?まだ手術後1ヶ月も経ってないですし、気にしない方がよろしいかと(笑)
ですが、一応回答しておきます。
40歳を過ぎて50歳ぐらいまでに現れる老眼というのは+1.0の老眼鏡で矯正出来る程度。と言われています。正視の方が老眼になって+1.0のメガネをかけると、-1.0Dの近視の眼の状態と同じということになります。なお、-1.0Dだと1mの所にピントが合っている状態ですので、これは近くを見るには非常に楽な状態です。なお-2.0Dだと50cmなので、これぐらいの近眼だと近視用メガネを外せば近くが見えるので、白内障にならない限り、70〜80歳まで老眼鏡は要らないと思います。
もしも、レーシック後に-1.0D程度の近視が残れば、上記のように近くを見るときに楽であることは変わりませんし、多少の老眼が出てきても、もともと近くが見やすい状態なので、残った(弱まった)調整力だけでも近くを見る事が出来ます。しかし、-1.0D程度の近視だと老眼が進んだときに、老眼鏡が必要になる事は変わりないので老眼鏡が必要になる年齢が10歳ぐらい後延ばしになった。と考えるのが適当でしょうか。
少しでも裸眼で長く過ごしたい。とか、40歳を過ぎてからレーシックを受けるというのであれば、-1.0D程度をターゲットにして矯正する場合があるようす。-1.0Dでも乱視が無ければ0.5〜0.8程度の視力は得られますので。
投稿者: Raptor(管理人) | 2007年05月23日 13:44
日時: 2007年05月23日 13:44
Raptorさん
激早のご回答をありがとございます!お礼が遅くなり失礼致しました。
なるほど。レーシック後の近視の戻りは、やはり老眼のことを考えれば少しだけ有利なのですね。
はい、私はまだ老眼を心配する年齢ではありません。
レーシックから3週間経ち、視力は安定してきたように思います。が、翌日検診の時の右1.00左0.95の視力がその後良くなったように思えず、今後視力の戻りがあったときには再手術が必要になるのかなと漠然と考えておりました。
でも将来の老眼を考えれば、そのままの方がいいのかなとも思って質問させていただいた次第です。
いつもとても分かりやすいご回答・ご説明に感謝しております!
投稿者: さくら | 2007年05月25日 10:02
日時: 2007年05月25日 10:02